「非認知能力」を育てるための一番のポイントは「不思議だな」「どうしてだろう?」と感じたり、考えたりするように促すことです。今回は「あたり前を疑う」ということを中心に考えてみたいと思います。
1. 「三態変化」を水のツブから考える
小学校4年生の理科で「物の体積と温度」という教材があります。つまり、温度によって「個体」「液体」「気体」に変化するという「三態変化」を学ばせるものです。
さて、ここで問題です。
水が氷になると、体積は増えるでしょうか? それとも減るでしょうか?
答えは「増える」です。でも、考えてください。これっておかしくないですか?
次の図は「固体」「液体」「気体」の時の様子をあらわしたものです。今回は、小学校で学ぶ形での図にしておきます。
「液体」を中心に考えてみましょう。「液体」は、分子同士がゆるやかにつながっている状態です。「液体」が冷やされて、分子同士がくっつくと「固体」になります。「液体」を熱し続けると、分子の間の引力が切れて、「気体」になるのです。
私は、子ども達に「水が、氷(個体)、水(液体)、水蒸気(気体)になっている時には、水のツブはどんな状態だと思いますか?」と問いかけ、子ども達に絵を描いてもらいました。
子ども達はそれぞれ、さまざまな絵を描いていましたが、それらの絵をもとに話し合った結果、「氷は、水のツブが近くに寄ったもので、僕たちが押しくらまんじゅうをするような感じ」「水蒸気は、水のツブが離ればなれになってしまう感じで、勝手に出かけちゃう感じ」と、まとまっていきました。
2. 氷になると、かさが増える(体積が増える)のは、なぜ?
さて、ここで子ども達から疑問が出てきました。「水が氷になるということは、水のツブがくっつくことだ。それなのに、かさが増えるのはおかしいのではないか?」というものでした。
確かに、液体から気体になったのですから、氷になった時に体積が増えるのは、理屈に合いません。私は、理屈や基本的な考え方からはずれていることについては、必ず疑問をもち、質問することを教えていましたから、子ども達は「そうだ! おかしいぞ!」「なんでだろう?」と首をかしげます。
ここで、そのことを実験で証明しようとしても、小学校の段階ではムリです。そこで、私が「世界中で、水だけが特別な凍り方をするのだよ。雪の結晶の写真を見たことがあるでしょう。六角形をしているよね。あんな形で、間を広げるように水のツブがくっつくのだよ」と、説明しました。
すると子ども達から、またまた質問です。「どうして、氷だけそんな凍り方をするの?」これ以上は、中学校の理科や、分子結晶の問題になってしまうので、説明してもわからないだろうと考えました。そこで、「そうだね~。どうしてだろうね~。不思議だね~」と、疑問を残す形で終わらせたのです。
実際に、水は基本的にはH2Oという水素原子2個と、酸素原子1個が結びついた分子という小さな塊でできています。結果的には、次の図のような形で、水の分子がくっつきあうのです。
3. もし水が、ほかの物質と同じ凍り方をしたらどうなるか?
もし水が、ほかの物質と同じ凍り方をしたらどうなるでしょうか。そうなると比重が重くなり、氷になったそばから沈んでしまうのです。
私は、「水のツブがくっつきあったら、重くなってしまうよね。そうすると、湖や海が凍るそばから、できた氷が沈んでいくよね。そうなると湖などに、どんどん氷が沈んでいって、湖の生き物はみんな死んでしまう。だから氷は水の上に浮いているでしょう。水の中の生き物を守るために、そんな凍り方をするのだね」と話をしました。
「そうなんだ。そんなことは、誰が決めたの?」と質問してきた子どもに、「不思議だよね。生命を守るために、水がそんな凍り方をするなんて、神様のしわざとしか言いようがないほど、不思議だよね~」と話したのです。
実際には、どうしてそのような凍り方をするかについては、かなりわかっているのですが、あえてそうした言い方をしたのです。子ども達は、自然の不思議さを感じ、理科が好きになると同時に、自分たちでさまざまな疑問を調べていくようになりました。
以前に、「不思議さが『非認知能力』を育てる」ということをお伝えしました。子どもの「非認知能力」を育てていくためにも、家庭で不思議だなと思ったことを、一緒に考え合ってみてください。今回の水の話をしてもよいと思います。
余談ですが、「水は氷になると体積が増える? それとも減る?」と大人に聞いたことがあります。ほとんど全員が、「増える」と答えます。理由は「小学校でそう習ったから…」だそうです。小学校の学びのインパクトが大きかったのですね。
でも、ここで紹介したような水の分子の話をすると、「確かに不思議だよね」とつぶやくのです。不思議さのなぞに迫るなんて、ドキドキする行為でしょう、そう思いませんか。
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増田修治先生
白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。
1980年、埼玉大学教育学部を卒業後、埼玉県の小学校教諭として28年間勤務。
若手の小学校教諭を集めた「教育実践研究会」の実施や、小学校教諭を対象とした研修の講師なども務めている。
「笑う子育て実例集」(カンゼン)、「『ホンネ』が響き合う教室」(ミネルヴァ書房)など、著書多数。